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『豊田雅子氏-NPO法人尾道空き家再生プロジェクト-』講演会を開催

March 16, 2018

アッセンブリッジ・ナゴヤ2017 みなとまち空き家スクール 『豊田雅子氏-NPO法人尾道空き家再生プロジェクト-』講演会を開催させていただいた。

 

空き家の増加が深刻な社会問題になっている昨今、10年も前から「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」を立ち上げ、これまでに100件以上もの空き家に新たな息吹を吹き込み、空き家再生から移住促進、コミュニティの再構築、 担い手の育成、雇用の創出、文化財の再生、観光客の増加へと展開され、 尾道メソッドあるいは豊田メソッドとでも言うべき奇跡といっていいほどの空き家再生型のまちづくりに取り組まれている豊田雅子さんをお招きし、お話しを聞きするとともに、みなとまちでの取り組みに関しても意見交換をさせていただいた。

 

 

 総体的な印象としては、とても素直で自然体な話であった。 なので聞いていると共感すること、納得することばかりである。
ただ、実はこれが難しい。 ありたいようにあること、なされるべきことがなされること。
終わってみれば、それが、その時代の、その場所の、そこに生きる人にとっての、必然であるかのように感じられ、あるべき型にばちっとはまるかのように、無理なく気持ちよく受け止めることができるのであるが、必然と理想と実情の間にはいつだってコンフリクトやジレンマがつきまとうものである。


そこには、ノウハウとして抽象化しようとしても拾い上げることができない重要な本質があるように思う。
豊田雅子さんとはいったいどのような人で、豊田メソッドの真髄とはいったいなんであるかを直接お会いし探ってみたいと思った。
それに加え、おそらくそこには「人」という要素が不可欠なのだろうと考え、尾道での空き家再生型まちづくりのムーブメントを豊田雅子さんという人を名古屋のみなとまちにお招きすることにより、1つの花火が他の花火に火をつけ連鎖していくように、来場者やこの町にムーブメントの種火をおこせないかと考えた。

 

豊田雅子さんが尾道空き家再生プロジェクトを通して空き家再生型のまちづくりに取り組んでこられた手法を「豊田メソッド」とすると、その特徴として「アジェンダセッティングによる合意形成」、「行動が先行することによる課題の発見とその乗り越えによる成長」、「テーマを共有する中間団体への細分化と素直な欲求が発動する主体的活動」、「人生物語との協奏」の4つが挙げられるのではないかと考える。

 

[アジェンダセッティングによる合意形成]
1人でできることにはどうしても限界がある。まちづくりは、その複雑さとスケールの大きさから多様な専門性と多大な労力と様々な人々の理解や協力を必要とする。なので専門家、地域住民、移住者、観光客、行政を巻き込み仲間の輪を広げ活動を展開していくことが求められる。その際の大きな課題として、多種多様な考えをもつ人々が対立することなく、いかに合意形成が図られるかということがある。


尾道の場合、共感の得やすい明確な問題意識、アジェンダセッティングがその役割を担っているように思う。
豊田さんは、大学進学のため地元尾道を離れ大阪に転居し巨大な都市での生活を経験することになる、また学生時代にバックパッカーとしてヨーロッパを旅行してまわったことで、外からの視点を持ち込むことによって郷里である尾道を再発見する。


坂と路地のまちとして車に依拠しない人のスケールによる町の構造と歴史のある建物が残る尾道の魅力を再評価するとともに、少子高齢化と大都市への人口流出を背景に、空き家が増加し尾道の原風景が失われつつあることへの強い危機感を抱くこととなる。
このような明確な問題意識は、同時代を生きる同世代を中心に共感を呼び、また活動を積極的にブログなどを通して発信していくことにより、アジェンダセッティングがなされていく。
アジェンダも状況に応じて変遷し、景観保存、移住希望者と空き家のマッチング、コミュニティの再構築、 担い手の育成、雇用の創出、文化財の再生、観光客の増加へと展開されていく。


問題意識の共有とアジェンダセッティングが、合意形成を進め、住民1人1人の想いや行動が連鎖し大きな輪になり、新陳代謝を伴い、変革していく町づくりのありかたを支える下地ができあがっていったと考えられる。

 

[行動が先行することによる課題の発見とその乗り越えによる成長]
さて、問題が共有されビジョンが示されたとして、誰が行動するのか、どのように達成すればよいのかという壁にぶつかる。行動を起こせば多大な労力が求められるし、達成への道のりには数えきれない課題が立ちふさがり、リスクを抱えることは容易に想像がつく。
豊田さんは、自身が主婦であり母であり専門家ではないことで既成概念にとらわれることがなかったと言う。


確かに、専門知識があればあるほど、前例主義に陥り、過去の失敗事例やものごとのリスクにとらわれてしまうのかもしれない。そうでなくとも、リスクを回避し確実性の高い論理的な戦略を導くために時間をかけ過ぎてしまうかもしれない。これは皮肉な話である。


豊田さんを見てみると、まずは思い立ったらリスクを恐れ過ぎず「行動(挑戦)」する。そうしたら壁にぶつかり乗り越えるべき「課題が発見」される。その課題に対してどのようにしたら解決できるかをみんなで「議論」する。必要があれば、必要な職能を有する人、そのことにモチベーションを有する人を巻き込み、随時「仲間を増やす」。そしてみんなで行動を「楽しみ」、課題を「乗り越える」。そしてまた、「行動(挑戦)」する。といったサイクルが見られる。

 

豊田さんは、自ら空き家を購入し再生させることを決意し、自分の足で町を歩き回り、昭和初期に建てられた随所に装飾や曲線が多用されている洋館付き住宅「ガウディハウス」と出会い購入する。
購入したはいいがさてどのように改修していこうかという課題にぶつかれば、様々な職能や考えをもった人を集め情報交換や活用方法を提案する作戦会議の場である「尾道空き家談義」を開催することを考える。これまでに月に1回のペースで開催され、まもなく100回をむかえる。


空き家には以前の住人の家財道具が大量にありそれを車も入れないような敷地からどのように運び出すべきかという課題にぶつかれば、町に開き欲しいものを自由に持って行ってもらう「現地でチャリティ蚤の市」を考案し、不用品を坂の下まで運び出す手間を省き、まだ使えるものは使ってもらい、なおかつ投げ銭形式で募金をしてもらい修復資金の足しにするという、まさに一石三鳥なことをやってのけてみせる。


いよいよ工事に取り掛かるにあたっては、建築の工事は多大な労力や費用を必要とするという課題にぶつかる。学生や一般の参加者を募り作業ごとにワークショップを開催する「尾道建築塾」を考案し、作業を楽しみながら助けてもらえる仕組みをつくる。そしてそれは、技術や知識の普及、空き家再生やまちづくりの担い手の育成にもつながる。


こうして、豊田さんの考えや行動に共感し仲間が増えてくると、それをムーブメントにするべく「尾道空き家再生プロジェクト」を立ち上げ、NPOの法人格を得る。様々な専門家や地域住民、移住者をも巻き込み、現在では、会員数が180人に達している。


また、「ガウディハウス」に出会うまでの6年間、自分の足で空き家を探して歩いた経験から、それまでの空き家バンクの制度では不十分だという課題にぶつかり、こういうのがあったらいいなという考えのもと尾道市と協定を結び、空き家の所有者と移住希望者のマッチングを進める「空き家バンク」の運営を行うことになる。現在までに利用者数が1000人を超え、空き家提供数が160軒を超え、移住者数が150人を超える。


移住希望者が尾道で暮らしていくためには、それを支える収入を生む雇用が必要であるという課題にぶつかれば、ゲストハウス「あなごのねどこ」をはじめとした収益事業に踏み出す。それは、商店街の賑わい創出や滞在型の観光客の増加にもつながる。


文化財級の空き家をどうしていくべきかという課題にぶつかれば、築100年の茶園(別荘建築)をゲストハウス「みはらし亭」として再生させ、国の登録有形文化財への登録を得る。

上記のように、「行動(挑戦)」→「課題の発見」→「議論」→「仲間を増やす」→「行動を楽しむ」→「課題を乗り越える」→「行動(挑戦)」→のサイクルが繰り返され、行動が先行することにより課題が発見され、それを乗り越える過程で仕組みや組織が構築、展開され、必要に応じて随時成長していくという活動のスタンスと発展の手法が特徴的である。

 

[テーマを共有する中間団体への細分化と素直な欲求が発動する主体的活動]
問題意識や主題が共有され、行動先行課題乗り越え発展型の手法により仕組みや組織が構築されていったとして、メンバーが180人にも達し大人数になる中で、いかに一人一人が主体性を保持しつつ、幅広く展開された多種多様な活動を支えていくことができるのか。ともすると、これほどの大所帯となると、主体性を失い、責任の所在が不明確になり空中分解しかねない。


「尾道空き家再生プロジェクト」の活動を見てみると、公園などの子どもの遊び場が少なかったという理由もあり、雑草だらけで荒れている空き地を手入れし、手づくり公園や菜園、もぎ取り果樹園、花畑などに再生させる「空き地再生ピクニック」を行ったり、せっかく大学で英語を学んだのにそれを生かす機会がないと寂しいという思いから外国人観光客を受け入れる「ゲストハウス」を運営するといった具合に、常に欲求に素直である。このことは豊田さんだけに限らず、「尾道空き家再生プロジェクト」のメンバーに共通して言えることのようだ。


一人一人の素直な欲求を発動させられる環境が、様々な人が主体性を保持しつつ活動するための原動力となっているように思われる。
それでは、どのようにしたら素直な欲求を発動させ主体性がもてる環境をつくることができるのかということであるが、様々な興味にフックする多様なコンテンツを用意しておいて、同じテーマを共有する大人数ではない顔が見える数の集団がいくつも形成されることが重要であるということが質疑応答などを通して導き出された。


豊田さんは、南イタリアや地中海沿岸都市など尾道に似た地形や気候を持つ都市に影響を受けていると言っていたが、イタリア建築・都市史を専門とする陣内秀信さんが言うところの、近所を意味する「ビチナート」、共同体を意味する「コムーネ」というイタリアの中間団体の概念に共通するところが大きいと思った。


大人数になった組織において、共通するテーマを共有するいくつかの少人数の集団に細分化することで、一人一人の素直な欲求が発動でき主体的に活動できる環境をつくることが重要であるということがみえてきた。

 

[人生物語との協奏]
これは、尾道を舞台とした空き家再生活動、まちづくりの話ではあるが、それはそのまま豊田雅子さんという一人の女性の私小説のようでもある。


大学進学のため大都市大阪に出て、バックパッカーとして世界中を旅し、外からの視点を持ち込み郷里である尾道を再評価するとともに、尾道の現状に強い問題意識を持つ。その後、尾道に戻り、問題意識や興味を共有する地元の数寄屋大工と出会い結婚する。惚れ込んで購入した「ガウディハウス」の改修活動の様子をブログで発信していると反響を呼びそれに共感する仲間が集まってきて「尾道空き家再生プロジェクト」を立ち上げる。

 

子供を出産し子育てに取り組む中で新たなコミュニティとつながる中で、20年以上空き家になっていた「北村洋品店」を1階が子連れママのための井戸端サロン、2階は子供服のリサイクルショップ兼プロジェクトのオフィスとしてリノベーションする。

バックパッカーとして海外を旅してまわった時に出会ったユースホステルやゲストハウスのような場所をつくりたいという思いから、大学卒業後に大手旅行代理店で添乗員をしていた経験も生かし、「あなごのねどこ」や「みはらし亭」のゲストハウスを運営することになる。


この時代、この場所が豊田雅子さんという人を生み育てたとも言えるし、豊田雅子さんがこの時代のこの場所をつくっているとも言える。
主客は反転し、組み込まれるのは、その地の文脈である。


一人一人の人間と建築、町、社会、時代のそれぞれが共犯関係をもち一つの文脈として並走していくという状況が新たな歴史をつくっていくのだろうと思った。

 

豊田雅子さんによる講演会と質疑応答、その後の「みなとまち空き家プロジェクト」との意見交換から、豊田メソッドを上記のようにまとめてみた。


つまるところ、強い想いをもってとにかく行動せよ、その途上で必ず壁にはぶつかるのでそれを成長のチャンスととらえて、仲間を増やし楽しく乗り越えていけ、チームが大きくなると対立や分裂を生んだり主体性を失うので、興味を共有する顔が見える人数に細分化し、チームのかじ取りのために段階的に流動的にアジェンダの設定を行え、とはいえ最後は「人」なんだということだな。


ありたいようにあること、なされるべきことがなされること、単純なようでいて、対象が複雑になればなるほど、スケールが大きくなれなるほど、これがなかなか難しい。


やはり実際に実践している人の話は強い。それも専門家による専門的なノウハウ

としてではなく、一般の主婦であると言ってみせる豊田雅子さんの自叙伝的な話はダイレクトに響く。


これからの空き家再生、これからのまちづくりのありかたを考えるとてもよい機会になったのではないかと思う。


会場には、建築の実務者、建築学生、みなとまち在住のかた、空き家問題を抱えている他地域に在住のかた、行政のかたなど様々な立場のかたがたに来ていただいており、立場を超えた議論の場ともなっていたのではないかと思う。

 
それぞれが、この経験を種火として持ち帰り、それぞれのフィールドで輪を広げ連鎖させていっていただけたらと思う。

 

 

 

 

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